慈経(じきょう)自由訳   訳者一条真也 三五館

 

一 平安の境地にある人は

心身ともにすこやかで

言葉やさしく 誠実で

うぬぼれることはない

 

二 足るを知り 簡素に暮らし

慎(つつ)ましく生き

心は平穏で 体中の感覚が静まり

賢く おごらず

それを他人に説くことはない

 

三 他人から非難されるような

下劣な行ないは

わずかでも決してするべからず

そして 命の尊さを祈るべし

すべての生きとし生けるものが

幸せであれ

平穏であれ

安らかであれ

 

四 弱きものも 強きものも

大きいものも 小さきものも

すべての生きとし生けるものの

命の尊さを祈るべし

幸せであれ

平穏であれ

安らかであれ

 

五 目に見えるものも 見えないものも

近くにあるものも 遠く彼方にあるものも

すでに生まれたものも

これから生まれようとしているものも

すべての生きとし生けるものが

幸せであれ

平穏であれ

安らかであれ

 

六 相手が誰であろうと

けっして欺(あざむ)いてはならぬ

どんなものであろうと

蔑(さげす)んだり軽んじたりしてはならぬ

怒りや悪意を通して

他人に苦しみを与えることを

望んではならぬ

 

七 あたかも

母がたった一人の我が子を

無私の心で命を懸けて守るように

すべての生きとし生けるものを

慈しむべし

 

八 慈しみの心に勝るものなし

それは空よりも高く 愛よりも深く

果てしなくつづく大地よりも広い

この世はあなたの心を映すであろう

 

九 立っているときも

歩いているときも

座っているときも

横たわっているときも

この慈しみの心を

しっかりと持つべし

眠りにつくときも

命の尊さに祈りを捧げるべし

これこそが

崇高な境地とよばれるもの

 

十 さまざまな邪見にとらわれず

戒(いまし)めをまもり

正しい洞察力を備え

すべての感覚を研ぎすませれば

もう二度と悩みや不安に

怯(おび)えることはないであろう

 

おわりに―「慈経」の自由訳について

「慈経」の教えは、老いゆく者、死にゆく者、そして不安をかかえたすべての者に、心の平安を与えてくれます。「無縁社会」や「老人漂流社会」などと呼ばれ、未来に暗雲が漂う日本人にとって最も必要なお経が「慈経」であると確信しています。この自由訳で、多くの日本人が幸福になってくれることを願ってやみません。

(この本の訳者一条真也さんの言葉です)。